ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたる例(ためし)なし。世中(よのなか)にある、人と栖(すみか)と、またかくのごとし。

たましきの都
のうちに、棟(むね)を並べ、甍(いらか)を争へる、高き、卑しき、人の住ひは、世々を経て盡(つ)きせぬものなれど、これをまことかと尋ぬれば、昔しありし家は稀なり。或は去年(こぞ)繞(や)けて今年作れり。或は大家(おおいえ)滅びて小家(こいえ)となる。住む人もこれに同じ。所も変らず、人も多かれど、いにしへ見し人は、二三十人(にさんじゅうにん)が中(うち)に、わづかにひとりふたりなり。朝(あした)に死に、夕(ゆうべ)に生まるるならひ、ただ水の泡にぞ似たりける。不知(しらず)、生れ死ぬる人、何方(いずかた)より來(き)たりて、何方(いずかた)へか去る。また不知(しらず)、假(かり)の宿り、誰(た)が為にか心を悩まし、何によりてか目を喜ばしむる。その、主(あるじ)と栖(すみか)と、無常を爭(あらそ)ふさま、いはばあさがほの露に異ならず。或は露落ちて花殘れり。るといへども朝日に枯れぬ。或は花しぼみて露なほ消えず。消えずといへども夕(ゆうべ)を待つ事なし。

鴨長明


川













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記事更新日:2022/09/11