人間の体には、免疫を作るためのあらゆる抗体のセットがあらかじめ用意されています。免疫グロブリンという遺伝子が、今まで一度も経験したことのないような病原体が入ってきても対応できるだけの抗体を、体の中で常に作っているのです。

ただ、普段はほとんど必要がないため、ほんのちょっとしか作っていません。しかし、いざ未知の病原体が入ってきたとなると、体は最適な抗体を探し出し、これを大量生産しなさいという指令を発します。

とはいえ、どうしてもタイムラグが発生する。指令が出たら大慌てで抗体を作り始めるのですが、病原体の増殖のスピードが速ければ負けてしまいます。抗体と病原体、双方の増殖スピードの競合になるわけです。

こう聞くと、「ちゃんと間に合うのかな?」と心配になるかもしれませんが、人間の体というのは案外、優秀で、抗体を増産するスピードはそこそこ速く、ほとんどの場合、無事、競り勝つのです。しかし疲れたり体が弱ったりして作る能力が落ちてしまうと、病原体の増殖スピードのほうが勝ってしまい、発病に至ります。

さて、この免疫の仕組みを見て、何かの仕組みに似ているとは思わなかったでしょうか?そう、神経細胞の自然発火です。

脳内の神経細胞は、何もない時でもランダムに集団として活動していること、そして記憶すべき情報が入力されたら、その時に活動していた神経細胞集団にストンとはまるのではないかという仮説はすでに説明しました。これも体の外からやってくる何物かに対して、常に準備している状態と言えるでしょう。

神経科学の分野では、その準備がどういう仕組みによって行われているか、いまだに不明のままですが、免疫学のほうでは、準備を司る遺伝子が特定されています。つまり、生物の体内で自然活動する特定のセットをあらかじめ大量に用意しておく生体のシステムは、物質レベルで根拠を掴むことが可能なのです。

生物がもし、基本的かつ普遍的な仕組みとして、「外来物に対する事前準備」というものを備えているとするならば、脳科学のほうでも今後、同様のシステムを見出していけるのかもしれません。
(井ノ口馨著「記憶をあやつる」p.113-115より)


免疫













記憶をあやつる (角川選書)
井ノ口 馨
KADOKAWA
2015-06-25




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記事更新日:2022/09/25