コペンハーゲン北部にあるビスペビャル病院(the Bispebjerg Hospital)の地階に、臨床生理学・核医学科(Clinical Physiology and Nuclear Medicine)という部門がある。その名が示すとおり、ここでは放射性化学物質を使って、人間の生理学(生体がどう機能するかを学ぶ学問)の研究が行なわれている。人間の脳の機能に関して現在詳細にわかっていることのうちで最も重要と言える発見の数多くが、過去30年間にここでなされてきた。この部門を率いるニール・A・ラッセン教授が、スウェーデンのルンドにある大学病院から来ていた同僚のダーヴィド・イングヴァルとともに、脳内の血液循環を調べる方法の開発研究をした。

彼らの手法の基礎は、1940年代から50年代にかけて、すでにアメリカで確立されていたが、ラッセンとイングヴァルが、人間の脳内の血液循環を詳細に測定できることを実際に証明したのは、1960年代に入ってからだった。これにより、特定の作業をするとき、脳のどの部分が活動しているのかを示すことが可能になった。脳には言語中枢、運動中枢、計画中枢、聴覚中枢などがある。

そのような中枢があることは、おもに、戦争で部分的脳損傷を追った兵士の研究により、100年以上前からわかっていた。しかし、脳内の血液循環を研究する新たな手法が開発されたおかげで、はるかに日常的なコンテクストでの脳の活動を探究することができるようになった。たとえば、たんに口をきくのと会話するのとでは大きな違いがある。

【図】たんに何かを報告するときより会話するときのほうが、頭の中では多くのことが起きている。この図は左右の大脳半球の各領域に循環する血液の量を示している。(フリーベルィとローランドに基づく)

脳内の血流の差異















ただ自分の部屋の様子を描写する人と、(たとえば、クリスマスをどう過ごすかについて)誰かと会話をしている人とでは脳内の血流に差異が見られる。

もちろん、個々の思考をのぞくことはできないが、その人が誰かと話しているのか、一人でしゃべっているのかはわかる。同様に、こうした観察からは、人が話す前に考えているかどうかも明らかになる。「椅子」「テーブル」など、実験者によって与えられた言葉の一つをただ繰り返すときと、「座る」「食べる」という具合に、与えられた言葉から連想を広げる必要があって、話す前に考えなければならないときとでは、脳の活動パターンが異なる。
(トール・ノーレットランダーシュ著「ユーザーイリュージョンー意識という幻想」p.149-150)


カフェでおしゃべり













ユーザーイリュージョン―意識という幻想
トール・ノーレットランダーシュ
紀伊國屋書店
2002-09-01



The User Illusion: Cutting Consciousness Down to Size
Tor Norretranders
Penguin Books
1999-06-01



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記事更新日:2022/09/17