YouTube 茂木健一郎の脳の教養チャンネル(2021/02/05)
「クラブハウスが人間の知能を加速させる」


クラブハウスについてですね。
ますます面白いことになっていて、クラブハウスは僕はウッドストックだと。ウッドストックってこの前言ったらわかんないって言う人がいたんで、若い世代は知らないんでしょうけど、1969年にウッドストック(ウッドストック・フェスティバル)という当時のヒッピームーヴメントの頂点といわれているコンサートがあって、そこで、例えば、ジミー・ヘンドリックスだとかボブ・ディランとかが歌って、たった三日間だったんですけど、ニューヨーク州の郊外で。これがだからポピュラーカルチャーに絶大な影響を与えたんですけど。1986年だったかな1987年だったかな、幸運超伝導という現象が見つかって、それまで絶対零度に近いところでしか幸運超伝導という量子力学の現象が見つかってなかったのが、物質を変えたら90K(ケルビン)ぐらいでも、90K(ケルビン)って凄いことですよ、もう絶対零度から見たらこんなにも上なんですけれども、それでも超伝導が起こるということがわかって、もうアメリカ物理学会、1986年だったかな1987年だったかな、その3月に行われたアメリカ物理学会が物凄いことになっちゃって。朝5時半くらいから物理学者が並んじゃって、翌日の午前2時とか3時までずっとやっていたという、まあこれが物理学会のウッドストックと言われてるんですけど。とにかく人々が熱狂しちゃって夢中になっちゃって。なんと異例なことに幸運超伝導という物質を見つけた研究者達がその年のノーベル物理学賞をもらったというんだから。もう、発表された年のノーベル物理学賞をもらうという凄まじいことが起こって。それをまあ物理学のウッドストックという。だから、何か新しいことが起こってみんなが夢中になっちゃって『うわーっ』となる状態をメタファーとして「ウッドストック」というわけですね、で、クラブハウスのこの一週間くらいなのかな、もう、様子を見てると、まさにウッドストック状態になってると思うんですど。
 

でね、そんな中で、とてもとても僕は面白いなと思っていることは、おそらくクラブハウスの登場がですね、人間の脳の働きを進化させるんじゃないかなと思ってるんです。これね、意外と重要なポイントでね。というのはね、AIコミュニティー、人工知能のコミュニティーでひとつ言われていることがあって、これから人工知能時代になると、むしろ人間の脳がリソースとして重要となってくるんじゃないかという話なんですよ。というのはね、いや、もちろんアルファゼロ(AlphaZero)とか凄いし、オープンエーアイ(OpenAI)のダリ・イー(DALL-E)といいますか、要するにテキストを与えるとそれに対してイメージが出るってのがあるじゃないですか。ああいうのも凄いんですけど。その人工知能って凄いんですけど。ただ人工知能って物凄いなんか、ワッテイジ(wattage=消費電力)というのか、食うんですよ電力を。これがムーアの法則でどんどんどんどん消費電力が下がっていったらどうなるのかってわからないんですけど、ただ現状ではビッドコインのブロックチェーン上の prof-of-work(プルーフ・オブ・ワーク)上の計算とかだって物凄い電力食ってるわけじゃないですか。そうすると、実は、人間の脳が物凄く計算をする資源としては一番効率がいいと、加藤一二三さん、ひふみんなんてね、お昼に鰻重を食べただけでちゃんと小脳が考えられると、物凄くエネルギー効率がいいと。だから人間の脳をうまく使うべきだという議論が出てきてるわけなんですよ。

 

それでそのクラブハウスって、これ僕ね、ある部屋に入ったときある方が言った言葉が凄く僕印象に残っていて。「クラブハウスは疲れますよねー」っていうわけですよ。これ凄く意味がわかって。昨日も僕、たかまつななさんね、あのお笑いジャーナリスト、最近なんと名乗ってるんだろう、そのたかまつななさんとちょっと日本のお笑いについて僕またツイートしたんで。今回は謝罪とか一切してませんからね、前回も俺ツイート取り消してないし。本当のこと言ってるだけだから別にいいんだけどさ。それについていろいろちょっとクラブハウスでしか喋れない話をしてたわけですよ、まあNHKのこととかね。そしたらそこにたかまつななさんがいてね、それで凄く楽しかったんですんけど。そこにいろんなスピーカーが入ってきて、僕はルームを運営している側なんだけど、物凄いなんかやっぱり単位時間あたりの情報処理の要求が高いんですよね。脳に対する負荷が高いんですよ。で、またこれとは別のルームだったんですけど、ある方が「茂木さん、あのー、クラブハウスやってると凄く疲れるんですよね」って。そうするとそこにいたスピーカーとかが「それ、わかるわかる」って言いはじめて。

 
クラブハウスって、結局その、普通だったらね、もっとなんか余裕があるわけですよ。例えば居酒屋でしゃべってるとか普通の部屋で喋ってると、なんかその、よっこらしょみたいな余裕があるわけなんですよ。つまり日本の国会答弁とかだと「なんとか君」って言って「はい」って言って歩いて席に行くまで時間がかかるじゃない。ああいう無駄なことっていうのが現実世界ではあるわけなんだけど、あれに相当することが。国会のあの無駄な行き来はない方がいいと思いますけど、クラブハウスって情報論的にものすごく詰まったやり取りが行われて、しかもそれが組み合わせでいろいろ行われると。しかもですね、普通だと顔の表情とか身体の身振りだとか、そういういわゆる embodiment(エンボディメント=具体化されたもの、体現)という「身体性」と呼ばれるものがあるんだけど、クラブハウスでのやり取りというのは音声ですよね。音声って実はそこにいろいろな人間の感情とかそういう情報が乗っているから、もちろんなんていうか、純粋に情報論的なものだけじゃないっていうか、正確に言うと情報論的なものなんだけど、そこには感情とかその人のパーソナリティの情報とかいろいろ乗っているんだけど、いずれにせよ脳にとっては聞くっていうのはある種の抽象化された概念として入ってくるわけですよ。視覚のようなビビットな tangibly(タンジブリー=実体的な、明白な)なものがリッチにあるというよりは、オーディトリーなものはむしろどちらかというとコンセプチャーなものにより近いというかっていうか。そもそも言語でお互い伝えやり取りしてるという時点でものすごくなんか概念性が高いっていうか情報圧縮性が高いわけですね。ということは、クラブハウスってちょっとイメージしていただきたいんですけど、余計なものをそぎ落とした概念空間の中で、しかも誰がどこから喋っているかっていう情報も落ちしてしまっていると。みんな気にしてないわけでしょ。一応きくかもしれないですけど、どっから喋ってますか、カリフォルニアからですかとか聞くかもしれないけどでも、基本的には空間の限定を取り除いた情報空間内のすごく密なやりとりというがクラブハウスで行われているから、コンピテーションとして、明らかに今までと違ったコンピテーションが行われているわけですよ。一段階密度が高くなったというか、濃縮度が上がった情報空間の計算が行われていて、それが脳への負荷が高くて、そしてあの、なんていうか、疲れるってことを言った人がいるっていうことなんだと思うんですよ。

James Flynn(ジェームズ・フリン)っていうニュージーランドの心理学者が Flynn Effect(フリン効果)というのを言ってるわけですよ。僕、TEDで一度この人の話をナマで聞いたことがあるんですけど、ジェームズ・フリンが言ってたのは、先進工業諸国での平均IQ、これがこのように上がっていると。要するにですね、確か10年間で7くらいかな、たしかそのくらい上がってるっていうのかな、そういうのを見つけたのがジェームズ・フリンの Flynn Effect(フリン効果)ですね。それで、これは脳の genetic(遺伝的な)構造は変わっていないわけなんですよ。なんだけど、何でそういうことが起こるのかというと、おそらく情報空間の処理のやり方が変わってきているんだろうと。ある種、ムーアの法則的なところがあって、これまあちょっといろいろと議論すべきことがあるのでざっくりとしか言えないんですけど、つまりムーアの法則ってどんどんどんどんCPUの機能が上がっていくっていう話じゃないですか、人間の脳も、だって皆さん考えてくださいよ、だってね、われわれのおじいちゃん、おばあちゃんの時に比べたら、われわれは一日のうちにどれだけ多くの情報を得てるんですか。ものすごい情報を得てるんですよ。そうすると脳の情報処理の負荷っていうのはどんどんどんどん上がってきているわけなんですよ。そしてその結果、この Flynn Effect(フリン効果)というIQの平均的な数値の上昇が見られると。だからその、いわゆる相対的な位置で100が平均で、IQのね。そしてそれよりも高い人が百幾つになるって話を計算しようと思ったら、この補正をしなければいけないと言われているんですよね。平均IQが上がっているということを補正しないと、人口の中でも相対的な位置がわかんないということが言われているんですけど。

クラブハウスの情報のやり取りって、おそらくこのフリン効果を加速させるんじゃないかなって僕は思っているんですよ。つまり
不特定多数の人といろんな組み合わせで次から次へと話すというようなことが、現実のパネルディスカッションのやりとりって、パネリストが決まっていて、例えば五、六人でしゃべる、英語圏の、英語系のですね、クラブハウスの部屋に入っていると、「パネル、パネル」と言ってますね、彼らは。パネルだと。シンポジウムのパネルのような扱いをしてるんですけど、だけどそれが現実の不随意的な空間がパネルだとそんなに入れ替わらないじゃないですか。でもクラブハウスのルームだとどんどんどんどん新しい人が入ってきたりして、またその人が新しい属性を持っていたりして、知っている人じゃないからどういう人なんだろうってまずプロフィール見たりだとか、その人にどういうことを話してもらうとか、僕はモデレーターやってると、そういうのがものすごく高度な負荷がかかるんですよね。あの、えっとですね、クラブハウスをラジオとして聴いてるときってのは、そこまでの負荷ってかからないんですよ。面白いんですけど。僕、英語系の部屋は今のところ大人しくしてて、ただ聴いてることが多いんですけど。とてもとても面白いんですね。その時やっぱり、えっと、なんか他の人が喋ってるのを eavesdropping(イーヴスドロッピング=盗み聞き)してるだけなんですけど、それでも脳に対する負荷っていうのは通常のラジオとかテレビとかのコンテンツを聴いてるよりは負荷が高いはずなんですよ。というのは、話者交代がどんどん起こるし、それから意外とさっき言ったみたいに会話の turn-taking(ターン・テーキング=通常の会話における、発話順序の交代)が迫っているんで、時間的に濃縮されたようなことを聴いているという面においては単位時間あたりの情報量が多いから、ただ聴いてるだけでもおそらくクラブハウスはおそらく脳の負荷が高いんですけど、次にスピーカーになると、さらにその負荷が高まってくると思います。つまり、どういう内容を聞けば良いのかとか、どういうことを話せば良いのかについての情報処理が行われると思う。
 

僕、クラブハウスの認知的負荷。これは初めて書く図なんですけど、えー、こんなイメージなんですよね。

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【Clubhouse Cognitive Load(クラブハウスの認知的負荷)】

  −Moderator
  
  −Speaker

  −Listening

  −radio、TV
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クラブハウスの cognitive load(認知的負荷)って、もともとクラブハウスを番組として、要するにラジオ的に聴いてるだけでも、普通のラジオやテレビよりは負荷が高いと。
で、それに対してスピーカーとして参加するとそれより負荷があるんですけど、ここのジャンプがすごいんですよね。モデレーターとして部屋の運営をして、誰をスピーカーとしてインバイトするかとか。スピーカーのリクエストがきた時に、その人を入れるかとか、スピーカーのあいだのバランスを取るとか、どういう話を持ってくるかってことをモデレーターをしながら喋ってるとかなり負荷が高くて。このような形でクラブハウスの cognitive load(認知的負荷)は上がっていくんで、かなり Flynn Effect(フリン効果)まあ加速させるのかなっと思うんですよ。
 

だからその最初の話に戻るんですけど、そのAI時代において実は人間の脳がコンピテーションのリソースとして一番注目されることになってくると思うんですよ。要するに、クリエイティビティってかね、創造性が、いま、その、われわれの経済的な活動や社会的な活動の付加価値を一番つけるものなんだけど、それをこの人間の脳というリソースにタップすることで開くというようなことがこれからロードマップとして見えていくんだろうな。
 

じゃあこれからクラブハウスがどう進化していくかというとね、僕は、こういう視点(白板に書いた図)からネットワークの最適化っていうのをクラブハウス側がやるような進化があったら面白いなと思うんですよね。お前こう喋ってんだろう。でもほんとはね、この人と喋るといいんだよ。Speaker・suggestion(スピーカー・サジェッションン)っていうんですかね。「この人をスピーカーで呼ぶといいよー」みたいなことをAIが判断するとか、「あるいはこのスピーカーもういいんじゃね?」ってAIが判断するとか、ゴングショーみたいになるよね。あるいは、「このスピーカーとの組み合わせだとこのトピックいいんじゃね?」とかいうことをAIがサジェストするようなことをこれから起こってきたらいいなと思ってるんですけど、起こんないかもしれないね。技術的に難しいかもしれないから。ただそのときに、やはり人間の脳の潜在能力がますます要求されるっていうか認知的な負荷がますます高まっていくという傾向になるだろうって僕は思っていて、それがこれからの cognitive load(認知的負荷)としてのクラブハウスの一番面白いとこなんだろうなと思ってます。

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記事更新日:2023/04/15